さて、人間の深部を描く川島雄三作品を見ていきます。
1956年
芦川いづみさんは、『風船』と同じ名前の「たまこ」役で優しく純真な女性を演じています。
州崎は、かつての赤線地帯、今の地下鉄・木場駅の北側一帯 。
1958年、この映画の2年後に売春防止法の施行によって姿を消したそうです。
金銭がなく駆け落ちした男女が、州崎に辿り着きます。
橋向こうの州崎パラダイスのアーチは、赤線地帯こちらは堅気の世界、行き行きする車やお客。
アーチの向こうは違う世界で、日中は青信号で行き行きする元気な客や車を描き、
夜は黄色点滅、事件でまっ赤になって止まった。というような赤信号のサブタイトルが意味しているのかと思った。
三橋達也役の男は、死ぬ死ぬと吐きながら、女に渋々従い、煮え切らなく、うだつも上がらない。
女が去り、空腹で道端に倒れる。
恵んでもらった握り飯にかぶりつく。
助かった後、人が変わって元気になる。
いく着くところまで行けば、プライドなど小さなこと、背に腹は変えられないと悟ったのか?
人間いざとなれば、腹をくくって逞しくなる。
歳をとると女は捨てられ、酷い目に遭うのはいつも女さと女の笑顔の裏には悲哀がある。
情に熱い飲み屋のおかみさん、子供にいじめられた猫もかわいがり、逃げた亭主も迎えるお人よし。苦労した人ほど情深い。
父の出身が深川だったので、ほとんど行ったことはなかったが、曲がったことが嫌いなノリのいい江戸っ子気質な父を思い出した。