さて、市川崑監督が文芸を映画化した作品を観ます。
1964年
人間の不可解な深層心理を描きます。
市川雷蔵演じる吃音症の青年の主人公の演技が、自然すぎてすごいです。
雷様と呼ばれたスター役者が、オドオドと自信なげでコミ障でとてつもない深い闇を抱えている。
この闇の深さそのものが、「驟閣寺」(しゅうかくじ、金閣寺の映画での名前)を放火する衝撃的な行動の動機だと納得してしまいます。
三島由紀夫も絶賛の演技だったそうです。
放火の原因を回顧的に描いていますが、それぞれのエピソードは小さなことにみえて、それでそこまでするのか?と思ってしまいます。
が、この青年にとっては一つ一つのエピソードが深い傷になっていく。
心の深部にグサグサと刺ささっていく。
尊敬する老師に失望した頃から自分の世界に入り、妄想が強くなっていきます。
誰にも理解されない孤独感、絶望と投げやりと復讐心、自己誇示…が放火をおこさせます。
映像美に酔う時間もない、緊迫したカット。
文芸とはこういうものだなぁ、と感じた作品でした。